というわけで、今回は2期9話について語っていきたいと思います。
ミアの変化
今回ミアがランジュを説得できたことのポイントとして、スクールアイドルは自分を表現できる場であること、なりたいという気持ちさえあれば誰でも受け入れてくれるということ…など、ミアがスクールアイドルに対していい意味で理解していたからこその言葉があります。
これって以前のミアなら言えなかったことだと思うんです。少なくとも、7話で「アマチュアのお遊び」と評していた頃の彼女では。
そんな彼女の中でのスクールアイドルに対する考え方がなぜここまで変化したのか。
それは、直接描かれてはいないものの、彼女もSIFの中で多くのスクールアイドルを見たからだと思います。多くのスクールアイドルを見ていくうちに、彼女たちがいかに自分たちを表現しようとしているのかを知り、スクールアイドルの魅力に気付いたのではないでしょうか。
前回8話での侑との会話シーンでも既にスクールアイドルに対するリスペクトを感じられる言い方をしていましたし、この時点でSIF初日からの変化が感じられます。
しかしそれはSIFでのパフォーマンスを観たからであって、最初から「興味ないね」と切り捨てていたミアではスクールアイドルのことを知ることはできなかった。そんなミアにキッカケを与えた存在とは?
そうです。
「ハンバーガーを理由にミアを誘った璃奈」です。
9話ではスクスタ同様に璃奈の言葉によって救いを得るミアが描かれていましたが、璃奈による救いというのは既にこの時点で始まっていたのかもしれませんね。
また、割引券といえば1期6話での愛さんとのやり取りを思い出させるアイテムでもあるので、愛さんから与えられた璃奈が今度はミアに与えたということが改めて強調されました。
誰かから与えられたものを今度は別の誰かに、あるいは与えてくれた相手に、今度は自分が与える立場になるというのは虹ヶ咲の好きな展開のひとつです。
ミアの変化についてもう一点。ミアは初めランジュのことをあくまでビジネスパートナーの関係としか思っておらず、ランジュを止めようと曲を作ったのも最初は「ランジュに今辞められたら自分が困るから」という理由からでした。
それが終盤では「もうビジネスパートナーじゃない」となったのです。これはいつの間に考えが変わったのでしょうか。
少なくとも1度ランジュに曲を聴かせて拒絶された時点では、言動からしてまだランジュのことはビジネスパートナーとしてしか見てなかったように感じます。
考えられるとしたら曲を作ってる間か、その少し前、璃奈と一緒にハンバーガーを食べたあたりになります。
璃奈の言葉で再び夢に向き合おうと決意したミアが空に手をかざした瞬間、ランジュの言葉の回想がよぎりハッとしたような表情をするミア。
この時点でミアは察したのではないでしょうか。
ランジュの本当の夢、ランジュも夢から目を逸らしていたこと、そして、そんなランジュが自分と似ていること。
それから更にランジュのことを考えながら曲を作っている中でミアの気持ちも変化し、ランジュのことをただのビジネスパートナーではなく、似たもの同士として別の関係を感じ始めたのかもしれません。
ミアのセリフ
ランジュの「ライバルでも友達になれる?」という言葉に対して「今更」と返すミア。ここも個人的に好きポイントです。
自分の好みの話ですが、「作中のキャラの言葉」としても成り立っている一方で、視聴者からみたら「メタ的なセリフとしても取れる言葉」でもあるセリフというのが好物だったりします。
まだ日の浅いミアからしても、ライバルと仲間(ランジュの言葉的には友達ですが)の両立は可能であるなんて同好会のメンバーを見ていれば一目瞭然なので、ミアは「今更」と返したのだと思います。
同時に視聴者からしたら「ライバル、だけど、仲間」なんてことは1期の頃から、いや、1期放送が始まるよりも前から作品のテーマとしてわかりきっていたことであり、ランジュの疑問は本当に「今更」にも程があるんですよね。
ここのミアのセリフはミアの言葉であると同時に、視聴者の気持ちをミアが代弁したセリフでもあるのかな、なんて思ってます。
また、侑の最後のセリフ「ようこそ、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会へ」という言葉もメタ的な見方ができます。
この言葉を聞いたとき、セリフの長さが少し気になりました。「ようこそ、同好会へ」とか、長くても「ようこそ、スクールアイドル同好会へ」で十分だと思うんですよ。
なぜわざわざ丁寧に虹ヶ咲学園とまで付けたのか、それは「ライバルでも友達(仲間)になれるのか」というランジュの疑問に対して「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」というこの作品自体が、それを可能にする場所である、という答えの意味を込めたのではないでしょうか。
そして前回のトキランが「9人と1人の物語」の到達点だったとするなら、今回の侑のこのセリフによって「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」という作品にランジュ達が「ようこそ」と迎えられたことで「12人と1人の物語」がようやくスタートしたと言えるのかもしれません。
それにしても、全員の曲の披露が完了する回であり、「仲間でライバル」という作品のテーマを強調する回でもあり、一旦の区切りとなるような回でもあるというのは1期9話も2期9話も同じですね。
そうなると、10話は小休止的なお話になると見せかけて今後重要になる何かが動き出す回でもあるのでは…?なんて想像もしてしまいますが。
サブタイトルのReach
今回のサブタイトルは「The Sky I Can’t Reach」と全て英語なのはミア回だからだと思いますが…。
英語を日本語に訳す際ってひとつの英単語に複数の日本語の意味が辞書に載ってたりして、文脈的に適切だと思う訳し方を推測する必要があったりしますよね。訳し方で全然意味の方向性も違ったりして。
それと同じで、今回のサブタイトルも訳し方で違った見方ができるものだと思っています。
reachという単語の日本語訳を調べると様々な言葉が出てきますが、その中で「手が届く」と「手を伸ばす」という似ているようで異なる意味の2つの言葉に着目します。
前者であれば「手の届かない空」ということになりますが、これは帰国の話をしているランジュのシーンから「どれだけ手を伸ばしても同好会には届かなかった」というランジュの様子を表した言葉だと取れます。
後者であれば「手を伸ばせない空」ということになり、これは夢を諦めようとしていた=そもそも手を伸ばそうとすらしていなかったというミアの様子を表していると取れます。
そして後者はもうひとつ、ランジュは「本当の夢」に対してはミア同様に手を伸ばしてすらいなかったということも表していると取れます。
今回はミアの掘り下げと活躍が描かれソロ曲も披露するという意味ではミア回と言えますが、同時にランジュの抱える問題に答えが出て、ついに同好会に加入するというランジュにとっても重要な回と言えます。
だから今回のサブタイトルはミアとランジュのどちらも表すように解釈できるようにしたのかもしれません。
ちなみに1期2話の「Cutest♡ガール」はそのままの意味で良いと思います。かすみは最高にかわいい女の子。それ以外に意味の取りようがないです。
MVの共通点
今回披露されたミアのMVでは、他のキャラとの共通点を感じるような要素があります。
猫をモチーフとしているような服は璃奈との共通点。
鳥籠はランジュや栞子のMVにも映っているアイテムで、過去に囚われていたことが3人の共通点として強調していることが窺えます。
このことから、ミアと璃奈の共通点、ミアとランジュと栞子の共通点が今回の重要ポイントと考えられます。
違いと共通点
スクスタにおいては、ランジュにとって「特別」という言葉は地雷ワードでした。ランジュは周りよりもスペックの高い少し特別な人間だったゆえに人が離れてしまい孤立していたからです。
アニメでは明言はされていませんが、ミアやランジュの過去はおおむねスクスタと同じであることが見受けられるので、アニメランジュも同じような理由で過去に人が離れたと解釈して話を進めたいと思います。
ランジュは特別、つまり他の人との違いが大きいから、過去の知人たちと分かり合うことができなかった。周りの人は違うがゆえにランジュを理解できず、ランジュもまた違うがゆえになぜその人たちが自分から離れていったのかを理解できなかった。
これはランジュに限らず全ての人にとって同じことだと考えています。
栞子も「誰だって、相手の気持ちがわからないことはあります。ランジュだけじゃ…」と言っていましたが、全ての人間はどこかしらの部分で違っていて、違っているからこそ完全な相互理解はできない。
ただランジュはその「違い」が大きい人間だから、そこが顕著になってしまっただけです。
「違い」があるからこそ人同士は分かり合うことができない。
それは裏を返せば「同じ」部分があればその分だけは分かり合うことができるかもしれない。だから今回の話では「共通点」が大事な要素になったのではないでしょうか。
共通点があったことで璃奈とミアが繋がれたように、ミアとランジュと栞子にも共通点があったからこそ繋がれた、少しでも分かり合うことができたのだと思います。
体験の共有
共通点というのは、別に趣味嗜好や考え方などのその人たち自身の特徴に限らず、その人たちが同じ時同じ場所で同じことをしたという体験も共通点と言えると思っています。
8話でかすみの言った「美味しいものはシェアするもの」というのがその例です。
璃奈とミアに共通点があったのも事実ですが、それだけで心を開けるかというと少し難しいように思えます。
ですがふたりは一緒にハンバーガーを食べたり一緒にはんぺんを愛でたりと、同じ場所で行動を共にしたことで次第に仲良くなれたのではないでしょうか。
2組の幼馴染
体験の共有により絆を築いた例が侑と歩夢の幼馴染コンビです。
歩夢の侑の仲の良さについては言うまでもないですが、あのふたりって似てるかどうかと言うとそうでもないですよね。
それなのになぜあそこまで絆を深められたかというと、当然あのふたりは幼馴染として昔からずっと一緒にいる時間が長く、様々な体験をふたりで共有してきたからなはずです。
対して小さい頃に離れ離れになった栞子とランジュは再会してからもイマイチ噛み合わない。ふたりで下校するシーンからもそれが伝わります。
栞子とランジュの相互理解の不足を象徴するものとして「栞子がスクールアイドルをやりたがってることをランジュは知らなかった」ということがあります。(私の知らない栞子がいる…)
ランジュと栞子が小さい頃からずっと一緒にいたら、さすがにランジュもそれくらいはわかったはずです。
いや、栞子がスクールアイドルに憧れたキッカケはランジュと別れて寂しそうにしてる栞子を薫子が気遣ったことが始まりなので、ランジュとの別れが無かった世界の栞子がスクールアイドルに興味を持ったかは少し怪しいですが、そこは一旦スルーで。
ランジュは唯ひとりの友達である栞子とも分かり合えなかった自分を責めていましたが、これは特別ランジュが悪いわけではないと思います。
先程も書いた通り、人と完全に分かり合うということ自体が誰にとっても難しいことです。栞子とランジュの幼馴染コンビの対比として侑と歩夢の幼馴染コンビを挙げましたが、その侑と歩夢だって完全に分かり合えているわけではなく、以前にはすれ違うこともあったことはご存知の通りです。
なら、離れ離れになっている期間の長かったランジュと栞子がすれ違ってしまうのも当然だと言えます。
それでも、栞子の「もっと仲良くなれると思うんです」という言葉通り、今後はスクールアイドル同好会で同じ時間、同じ体験を共有していくことでこのふたりもきっと少しずつ絆を深めていけることでしょう。
そんな未来への希望が感じられる回でした。
おわりに
はい、というわけで今回こんな感じなんですけど。
ミアのいう「ランジュのための曲」という言葉の意味が「ランジュが歌うに相応しい曲」から「ランジュの心を動かすためにミアが歌う曲」に変化していたのが個人的に面白かったです。
夢ここ披露前の「あなたのための歌を」という言葉を思い出しますね。
そもそも、音楽にせよ物語にせよ、あらゆる創作物の多くは受けとる人の心を動かすために作られるものだと考えています。
この虹ヶ咲という作品も、多くの人の心を動かして、その人の人生を豊かにするキッカケになるような作品になると良いですね。
そして、R3BIRTH組が物語に登場したのは2期1話からでしたが、仲間に加わったと言えるのは今回です。これからの12人と1人の物語が楽しみですね。
次回は新体制になってからの日常回。いや、日常回とかあるの?1期10話みたいになんだかんだ大事な回になるんじゃないの?って気持ちが大きいですが、とりあえず我らがBUCHOのかすみんの活躍を見届けたいです。
それでは、ミアがギガビッグマックを完食した頃に、またお会いしましょう。